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あえのこと

昨日2月9日は奥能登地方に伝わる「あえのこと」の日でした。
「あえのこと」とは田の神様が田んぼで耕作者を護ってくれていると考えられていた昔から伝わる伝統行事で、今でもそれぞれの家庭のスタイルに合わせて行われています。神頼みと言われるように自分たちの力や願いではどうにもならない天候に左右される稲作農家が田の神様にすがったのは容易に想像できますよね。

これまでもこの伝統行事を先輩のお宅で見守ってきたのですが、いよいよ自分でもやるようになって色んな学びがありました。

去年、栄養過多により早稲のノトヒカリが倒伏をし始めた時、毎日のように田んぼに出向き手を合わせて少しでも被害が少なくなるよう願い続けました。
しかし結果は皆さんがご承知の通り倒伏率95%という記録的な壊滅具合でした。その中でもほんの僅かに残った稲を刈り取りハザにかけ、そのハザも風で倒されるという散々な目にあいましたが、これも本格的に取り組みはじめた私に小規模な試練を与えて農業の厳しさや現実を教えていただいたのだと思っています。

そして秋の稲刈りには、ハザがけしているのに雨に打たれ、ようやく乾燥してきたかと思えば再び雨に打たれ、ようやく脱穀まで漕ぎ着いたと思えば今度は雀の食害にあい、何度天を仰いだ事か。自然栽培を好む我が農園では尚の事自然に左右されてしまうのですよね。それでも収穫し、白米になり、そのお米を一口食べた感動は今でも鮮明に記憶しています。

稲作は毎日が祈りの日々だと言っても過言ではないと思います。

種を撒いたら芽が出ますようにと願い
芽吹いたら枯れませんようにと願い
田植えをしたら立ち枯れしませんようにと願い
定着したら雑草の被害が出ませんようにと願い
水が枯れませんようにと願い
日照不足になりませんようにと願い
田んぼが乾きますようにと願い
カメムシの食害が少なく済みますようにと願い
台風が来ませんようにと願い
雀さんに食べつくされませんようにと願い
機材が壊れませんようにと願い
どうか美味しいお米に仕上がっていますようにと願い
最後まで体が壊れませんようにと願い

先人たちは本当に感謝や畏怖や願いなどの思いを込めて「田の神様」に今年1年の豊作と家族の健康を願っていたのです。
ご先祖さんたちは、こんな気持ちで手を合わせていたんですね。

さて、昨日は友人のお宅での「あえのこと」を特別に見学させていただきました。友人のお宅では先代から伝わる所作であえのことが行われます。

友人のお宅では神様は二人、性別は不明との事です。輪島塗の朱塗りの御膳に盛られたご馳走(本当にご馳走です)を前に田の神様に感謝し、紋付袴で正装して田の神様にお礼を伝えます。
このあと田んぼに向かい田の神様を送り出したら今年の稲作がスタートします。

友人のところは傾斜がきつい田んぼなので手植えしか出来ないので、ほんと大変だろうと思います。どうか体を壊さずに今年も共に頑張りましょうね。

夕方からは我が家のあえのことを行います。

本来であれば田の神様と夕食を楽しんだあと、田んぼにお送りするのですが、暗い田んぼにお送りするのは気が引けたので夕方に田んぼに向かい神様に見立てた能登ヒバ(アテ)の葉に向かって送り出しを行いました。(撮影は娘にしてもらいました)

まだ雪の残る農道を神様を手に田んぼに向かいます。

遠慮なく田んぼの中に入ってゆき

真ん中辺で田の神様を立てて

田の神様に今年1年の豊作と家族の健康をお願いします。

なんで家族の健康なんだろうってずっと思ってたんですけど、家族が健康でないと、とてもじゃないけど稲作なんて出来ないんです。自分が当事者になってようやく実感しました。家族の健康が全ての基本なんだって。

神様には去年の稲作に感謝し、今年の抱負を伝えて、どうか、どうか私たち家族を、田んぼをお護り下さいと心の底からお願いをして田んぼから上がってきました。

余談ですが、近年この農民の切なる願いを込めた「あえのこと」を商売に利用する輩がいるのでどうなんだろうなと思っています。田んぼの苦しさも、自然への畏怖も何も知らない人たちが商業利用する事に対しては憤りを感じてなりません。それほど大切な儀式なのだと改めて感じています。農民はまさにこれから命がけで稲作に取り掛かるのです。まぁそんな人には何を言っても無駄でしょうけどね。

さて田んぼから上がると今度は自宅で田の神様へお出しする料理の準備です。

うちでは蕎麦の栽培してはいないのですが、私の自慢の手打ちそばを打ちます。
汁は地元の猟師さんが獲った鴨を使って鴨せいろです。

ちょっと乱雑かと思いますがお許しを。

全ての準備が揃ったところで神様にご挨拶します。

去年の稲作に対する感謝。そして今年の作付けの予定と抱負を伝えてから料理の説明を行います。

お蕎麦は自家製の粉ではありませんが、長野県の農家が丹精込めて作った物であること、汁の鴨は市内の友人が譲ってくれた野鴨を使っている事。
ホタテは岩手県の親戚が送ってくれた物。ぼた餅(おはぎ)は午前中にあえのことした友人の母上から頂いたもの。甘エビはバイト先から貰ってきた物。
いちごは一番の理解者である東京の家族のような八百屋の親父が送ってきてくれたもの。イカのお刺身は去年の秋に自分で釣ってきて冷凍してあったもの。

親戚の叔母さんも呼んで実施したあえのこと。宴もたけなわな頃、我が家の飼い猫さんが降臨して生き神様に。

これには一同大笑い。それはダメでしょ〜と下りてもらいました。

それにしても、どれだけ周囲に支えれて、周囲に愛してもらって生きているのか実感して、改めて感謝しかないですね。田の神様をはじめ支えて下さっている全ての人々に感謝。ひたすら感謝です。
コロナ禍でなかったら友人知人も招いてみんなで祝いたい「あえのこと」ですが我慢ですね。年末の収穫を祝う「あえのこと」では盛大にできるといいな。

宴の〆には、とっておきの無農薬ハザ干しコシヒカリを土釜で炊いてもらいました。

今年もこんな美味しいお米が作れますように。

田の神様よろしくお願いたします。

 

2022年2月9日

能登太左ェ門

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